無痛分娩を経験した方や、立ち会ったご家族から、こんな話を聞くことがあります。
「なかなか赤ちゃんが降りてこなくて、先生が中で何かしてた」
「途中から急に分娩が進まなくなった」
その原因の一つが、「回旋異常」です。
私は助産師として18年働いてきましたが、最初の15年以上は自然分娩がメインでした。回旋異常ももちろんありましたが、「たまにあるもの」という感覚でした。
ところが——ここ2年ほどで無痛分娩がメインになってから、その頻度が全然違うんです。
正直に言います。私の体感では、無痛分娩のお産の約半数で、何らかの回旋異常が起きています。(ちょっと大袈裟かもしれませんが😅)
もちろん最終的には正常な向きに戻って、無事に産まれることが多いです。でもその「戻すまでの過程」で分娩が大幅に長引いたり、医療介入が必要になったりします。
実は前回の記事で「無痛分娩で分娩が長引く理由」についてお伝えしましたが、その大きな原因の一つがこの回旋異常です。今回はその「正体」を、詳しく解説します。🥸
🔄 そもそも「回旋」って何?
赤ちゃんはお腹の中でただ下に降りてくるのではなく、ママの骨盤の形に合わせて、頭や身体の向きを変えながら産道を通ってきます。これを「回旋」と言います。
正常な場合、赤ちゃんは最終的に顔をママのお尻の方向(下向き)に向けて生まれてきます。頭の後頭部が前にある状態(前方後頭位)です。

⚠️ 回旋異常「後方後頭位」とは?
ところが、うまく回転できずに、顔がママのお腹側(上向き)を向いたままになってしまうことがあります。これが代表的な回旋異常「後方後頭位」です。
後方後頭位になると、骨盤の中で赤ちゃんの頭がうまくはまらず、分娩が止まったり、時間がかかったりします。

📊 無痛分娩との関係——データで見ると
後方後頭位は、自然分娩でもまれに起こります。ただ、無痛分娩ではその頻度が明らかに高いというデータが複数報告されています。
- 無痛分娩なし:分娩時に後方後頭位になる割合 約5〜7%
- 無痛分娩あり:同 約12〜15%(研究によっては約5倍のリスク増)
(参考:Lieberman et al., Obstetrics & Gynecology, 2005ほか)
なぜ増えるかというと——硬膜外麻酔によって骨盤底筋がゆるむため、赤ちゃんの頭を「回す」際のガイドが失われてしまうからです。通常、筋肉の緊張が赤ちゃんの頭をうまく誘導する役割を担っています。
😓 回旋異常が起きるとどうなる?
正直に書きます。
- 分娩が止まる・長引く:赤ちゃんの頭が骨盤にはまらず、いくらいきんでも進まない状態になります。
- 母体の激しい腰痛・背部痛:後方後頭位では「背中側」に強い痛みが出ることが多く、無痛分娩でも痛みを感じることがあります。
- 器械分娩(吸引・鉗子)の増加:自力で回旋できない場合、器械の力を借りることになります。
- 帝王切開への移行:それでも進まない場合、緊急帝王切開になることもあります。
🙌 対処法——助産師・医師はこうします
回旋異常が疑われたとき、現場では以下のような対応を取ります。
① 体位変換
四つん這いや横向きの姿勢に変えることで、重力や姿勢の変化を利用して赤ちゃんが自然に回転しやすくなることがあります。無痛分娩中でも、体位変換は積極的に行います。
② 用手回旋(ようしゅかいせん)
助産師や医師が内診(膣内に手を入れて)しながら、赤ちゃんの頭を手で直接回す処置です。聞くと怖そうに感じるかもしれませんが、手技に慣れた医療者が行えば比較的短時間で回転できることも多く、その後スムーズに分娩が進むことがあります。無痛分娩中でできるのは、麻酔で痛みが和らいでいるためです。
③ 吸引・鉗子分娩
体位変換や用手回旋でも対応できない場合は、器械を使って赤ちゃんを牽引します。後方後頭位のままで引き出すことも多く、その場合は会陰への負担が大きくなりやすいため、裂傷のリスクも上がります。
④ 帝王切開
母体や赤ちゃんの状態が悪化した場合は、速やかに帝王切開に切り替えます。
🌸 それでも、知った上で選んでほしい
回旋異常は、確かに無痛分娩で増えます。でも「だから無痛にしてはいけない」ということではありません。
現場では、経験豊富な助産師や医師が体位変換や用手回旋で対処しています。そして、無痛分娩だからこそ「処置中もお母さんが痛くない」というメリットもあります。
「リスクがある」と「やめるべき」は、イコールじゃありません。
大切なのは、こういうことが起こりうると知っておくこと。そして、いざというとき医療者を信頼して任せられること。
無痛分娩を選ぶ前に、担当の先生や助産師に「回旋異常への対応はどうしていますか?」と聞いてみるのも、とても良い準備だと思います。
✨ まとめ
- 回旋異常とは、赤ちゃんがうまく頭や身体の向きを変えられない状態
- 代表的なのは「後方後頭位」(顔が上を向いたまま)
- 無痛分娩では骨盤底筋がゆるむため、回旋異常が約2〜5倍起きやすい
- 分娩が止まる・器械分娩・帝王切開のリスクが上がる
- 体位変換・用手回旋・器械分娩などで対応できることが多い
- 知った上で、医療者と一緒に乗り越えていける



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